時代思潮
ジョンスピーリー
ある戦争中の語り伝え
佐藤秀夫は1940年、小学生だった頃、日の丸を君が代に合わせて揚げさせられたことを思い出す。
(君が代は日本の国歌で「天皇の御代」という意味)
日の丸が旗竿の上に届くのが歌より早過ぎると教員は彼を殴った。
60年以上たって、彼は今だにこの旗が使われていることが不愉快である。
今では東京の公立校の教員は君が代が卒業式などで演奏されるとき立つことを拒否すると( いわゆる直接行動ではなくても)「殴られる」。
東京の中学校教員、根津公子は2003年以来毎年、1ヶ月から6ヶ月の無給停職を強いられている。
今年停職になるとすれば、それは彼女の「最後」になるだろう。
「都教委は停職ではなく私を6月までに免職にするでしょう。私は覚悟しています。」と彼女は言う。
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彼女の教員生活の中でほとんどの時期、大半の学校は「日の丸君が代」を強制してこなかった。
学校がこの「愛国的儀式」を導入したとき、教員達が不起立によって抗議の意思表示をしても処罰されなかった。
すべては2004年に変わった。
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ビデオプレスの松原明は「右翼の都知事石原慎太郎のせいだ」
「他の地域では不起立でも処罰されないし、まれにされても累積により厳しくなることはない」と言う。
根津にとっては今回は「不起立」という単純な抗議によって、教員としての職を失うことになる。
「ここ数年、私は停職だけではなく、ホームルームを持つことを拒否されています。きびしく仕事を干されています。さらに毎年他の学校に転勤させられています。私の通勤は2時間以上かかります。これらはみんな罰なのです。」と彼女は言う。
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そして根津に罰を与えるのは都教委だけではない。
親から吹き込まれたと思われる生徒達は不遜な態度を取るだけではなく敵意を剥き出しにする。
昨年暴力事件さえ起きた。
「私は階段で男子生徒に突き飛ばされ、持っていた本をたたき落とされました。怖かった。」
さらに教員をやめろという、嫌がらせ電話、嫌がらせメールがある。
「北朝鮮に行け、おまえなんか日本人じゃない。」がよくある嫌がらせの内容だ。
「こんなことをしょっちゅう言われると落ち込みます。」 と根津は言う。
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根津のような教員達は日本やその慣習を侮辱しようとしているのではない。
それどころか、これは日本や他の国を軍国主義、戦争の時代に導きかねない、権力の命令に対する抵抗運動なのだ。
もちろん根津だけが、抗議行動により厳しい処分を受けているわけではない。
この数年の間に400人ほどの教員が不起立により処分されている。
その中で、根津と、養護教員の河原井純子と、高校理科の教員、伏見忠だけが違反を繰り返したとして停職にされている。
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さらに伏見は2003年と2004年、停職に加え10%に減給処分にされている。そして根津のように繰り返し懲罰的転勤をさせられている。
彼はこの5年で3つの学校に転勤させられている。こんな例は他にはない。
彼の「君が代不起立」に対する学校側の対応策は式の間、「警備」の為と称してかれを外に配置する事だった。
伏見は内心ほっとした。お陰で罰せられないですむ。その一方、 中では同僚教員や生徒が起立させられていることに心が痛んだ。
「子供の頃は日の丸君が代に起立を求められれば従った。」「最初、何故なのか考えなかった。後に歴史で君が代は天皇賛美であることを知ったとき裏切られたと思った。私は自分の生徒達に同じ思いをさせたくない。」と彼は言う。
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伏見や根津ら教員は間違いを犯さないよう「再発防止研修」を受けさせられている。
根津達はこの処罰に抗議するため、研修を受ける際、愛国主義の強要に対する抗議と主張を印刷したトレーナーを着る。
この着用を理由としてさらなる処罰が下されている。
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高校教員の藤田勝久は卒業式の前、「日の丸君が代」の儀式を快く思わない人は不起立でその意志を表そうと呼びかけるビラを配った。教委は5分間式を遅らせ混乱させたとして彼を刑事告訴した。
検察はこれに対し懲役8ヶ月を求刑した。
裁判所は藤田に罰金20万円の支払いを命ずる判決を言い渡した。
彼は控訴しているが最高裁判決は2010年まで出されないと思われる。
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2006年9月21日、東京地裁は都教委を相手とした裁判で、(当初150人の教員が提訴していた)400人の教員に対し勝訴判決を出した。
原告勝訴の判決内容は
1) 式の際、教員に歌う、立つ、ピアノを演奏する義務はない。
2) 起立を拒否した教員に対する処分は認められない。
3) 東京都は原告一人当たり3万円の損害賠償金を支払うものとする。
さらに判決は教員への起立強要は教育基本法に違反していると述べている。
懲りない都教委は最高裁に上告した。
この件も2010年まで判決が出ない。
その間も教委は自分たちの命令に従わない教員達にいやがらせをし処分を続けている。
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さらに最近、起立を拒否した12人の臨時教員と事務員が都教委を相手に提訴した件は勝訴している。
2月7日、東京地裁は原告に対する解雇を不当とし、都教委に一人当たりに210万円を支払うことを命じた。
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この賠償金支払い命令にもかかわらず、ビデオプレスの松原明はこの勝利は不完全だと考えている。
この判決は、起立を拒否した教員を罰するにいたった校長達の命令は適法である、しかし都教委の処罰はいきすぎだ、としているのである。
しかし松原は、やがて解雇されて裁判をおこすであろう根津にとってこの判決はよいものと考えている。彼女が勝てばこれまでの未払い賃金を取り戻せるという意味を持っているからである。
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松原は2006年に教員達の闘いを記録した90分の英語字幕付きDVD「君が代不起立」を制作した。
このDVDは、根津 が停職期間中、酷暑の中、校門の前で元気に座り込みを行っている様子、教員達の闘い、都教委官僚と支援者との緊迫した対峙、裁判の詳細を描いている。
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批評家達はこれらの攻撃をここ数年の日本のナショナリズム高揚の一部と考えている。
1999年8月、国旗国歌法が成立し、日の丸を国旗とし君が代を国歌とする法律が施行された。
その年、広島県の学校長が県教委の圧力と、卒業式での日の丸君が代を拒否しようとする教員との板挟みに会い、自殺した。
いくつかの出来事が、生徒に愛国心を植え付け、抵抗するものを罰しようとする右翼思想家達を勢いづかせてきた。
その一つが1970年代の北朝鮮による日本人拉致事件にメディアがスポットをあて、国民の怒りをかき立て、国粋主義者を、より強硬路線に押しやる機会をあたえてきたことである。
例えば石原都知事は、2004年、北朝鮮に対する経済制裁をすべきだと訴える中で、日本の対外政策はいつも人道主義にかたより、甘すぎると批判している。
2003年、戦争放棄の条項、憲法9条の将来を危ぶむ議論のなか、日本政府はイラク戦争を支持した。
この件で石原は、誰がこんなばかな憲法を作ったんだ、歴史的合理性を見いだせない、と言っている。
保守派の前総理大臣安部晋三(2007年9月就任1年で辞職)は、わずかな改正予定の法案の中で、教育基本法(真実、平和、正義を謳っている)を改正させた。
安部内閣は子供達に「国を愛する心」を教え込む法案を通過させたのである。
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この新法を批判する人たちは、子供達は天皇のご真影の前で愛国的勅語を暗唱しなければならないとする、1890年に発布された教育勅語の影を見る。
ビデオ「君が代不起立」の中で、松山大学教授、大内裕和は「愛国心教育」が軍国主義に明確に結びついていると述べている。
「導入されようとしている愛国心の意味は明らかだ。戦争に参加させる政府の命令に、すすんで従う人を作り出そうとするものだ。日の丸君が代の強制は改悪された教育基本法を具象化するものだ。だから、君が代に対する闘いは、学校の戦争協力を拒否するものであり、思想良心の自由を守ろうとするものだ。」と彼は説明している。
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第二次世界大戦の退役軍人、小林ひろやすは「戦争とは何なのだろうか。我々はなぜそれをしたのだろうか。幼い子供達が文句も言わずにひどく働かされた。思い出すと心が痛む。」と言う。
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根津とその数百人の支援者「良心の拒否者」は彼らの行動こそが、この問題に対し、取るべきものだと信じている。