平成17年(モ)第440号立入禁止仮処分保全異議申立事件

            決         定

   東京都港区虎ノ門1丁目7番12号
債    権    者

同代表者代表取締役

同 代理人弁護 士


沖 電 気 工 業 株 式 会 社
                 
篠   塚   勝   正

内   藤   貞   夫

渡   部   朋   広

長   家   広   明
東京都八王子市椚田町1214番地1−707

   債   務   一者    田   中哲朗

          主          文

 1 上記当事者間の東京地方裁判所八王子支部平成16年〈ヨ)第419号立入禁
   止仮処分命令申立事件について,同裁判所が平成17年2月28日にした仮

   処分決定を認可する。

  2 本件異議手続における申立費用は債務者の負担とする。

             理         由

第1 事案の概要
   原決定「第2 事案の概要」欄に摘示されたとおりであるから,これを引用す

  る。

第2 当裁判所の判断

1 後掲疎明資料及び審尋の趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。


 〈1)債権者は,電子通信装置・システムの開発,製造,販売及び輸出入等を目的とし,資本の額が678億6889万円余の株式会社である。債務者は,かつてその従業員であったが,昭和56年6月29日,就業規則違反を理由に解雇(以下「本件解雇」という。)されたものである(商業登記簿謄本,
   甲10ないし12)。
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(2)債務者は,昭和56年,東京地方裁判所八王子支部に対し,債権者を被告として,本件解雇が無効であるとして,労働契約存在確認等請求事件を提起したが,平成2年3月22日,原告の請求を棄却するとの判決が言い渡された。債務者は,その後同判決に対し控訴したが,平成5年4月15日,控訴棄却の判決が言い渡された。債務者は,その後同判決に対し上告したが,平成6年3月22日,上告棄却の判決が言い渡された(甲10ないし12)。

(3)本件土地は,債権者所有の八王子地区事業場敷地の一部であるが,事業場の鉄製正門扉やコンクリート塀の外側に位置しており,公道の歩道と同一平面の状態で接している。債権者は,本件土地を,事業場敷地に出入りするための正門通路と通行時における安全確認のための土地として使用している。


 本件土地は,歩道とはコンクリート及び黄色ペイント表示等で画され,昭和58年頃から,歩道との境界近くには高さ1メートル程度の地中埋込み可能な金属柵が複数本設けられ,歩道とは区別され,外見上,債権者の管理に係る土地であることが明らかな状況であった。しかし,公道の歩道と同じ平面で接し,前記のような金属柵が複数本設けられているものの,その間には鎖 等が張られていないため付近の小学校に通学する学童等の通行人が本件土地を通行することが可能であり,現に通行されていた。

債権者は,平成13年10月20日以降,金属柵の間に鎖を張り,またその一部鎖に「立入禁止」と記載した板を吊すようになった(甲8,乙24)。

(4)債務者は,昭和56年に解雇されて以来,ほぼ毎日,本件土地と公道の歩道との境界線付近において,携帯拡声器を用いて,債権者を批判する内容の演説や自作の歌の演奏等を行っている(甲8,乙13)。

(5)債務者は,昭和59年1月29日から現在に至るまで,ほぼ毎月29日に, 午前10時ころから午後3時ころまでの約5時間にわたり,「座り込み闘争」と称して,本件土地に立ち入った上,本件土地において,「座り込み闘争決行中」と大書し,その両側には「沖電気は不当解雇を撤回せよ!」及び

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 「沖電気は非人間的な職場支配をやめよ!」と記載した立看板等をコンクリート塀に立て掛け,本件土地に折り畳み可能なパイプ椅子を1脚又は数脚持ち込み,また時にはビーチパラソルを持ち込むなどして,債務者1人で又は支援者とともに,債権者を批判する言動を行い,また「
沖電気の不当解雇と闘う田中哲朗」等と記載した風船を通行人に配布するなどの行動を行っている(乙17,18,24)。


〈6)債権者は,債務者が本件土地を使用して上記行動を行うに当たり,債務者が毎月29日の行動を始めた前記昭和59年1月29日以来本件土地の使用について明示の許可を与えたことはない。債権者は,平成13年10月29日以来,警備担当者が債務者に対し,本件土地は債権者の敷地であるので立ち入らないように警告し,その上で警備担当者が債務者の前に立ちふさがるなどして,債務者による本件土地への立ち入りを阻止しようしたが,債務者は本件土地に立ち入って,前記のような活動を行っている(甲6ないし8)。


(7)債務者は,今後も,毎月29日には,本件土地に立ち入って,前記のような活動を行う予定である(甲7,8)。
 前記認定事実によれば,被保全権利があることが認められるのみならず,保全の必要性も認められる。
 債務者は,債務者による本件土地への立入りには財産権取得時効が成立する旨主張するが,時効取得に係る具体的財産権の主張がなく,主張自体において
理由がない。


 なお,債務者主張に係る取得時効が成立する財産権としては,当事者間の合意という債権が考えられないではないが,
時効取得が成立するためには本件土
地への立入りが債権者による使用許諾に基づくものとして行われ続けることが必要であり
,債権者が単に拒絶しない状態が続いたというだけでは足りない。
ところが,本件においては,債務者による本件土地への立入りは前記認定のような経緯で行われるに至ったものであり,しかも債務者は,本件土地への立入
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後は,前記認定のように,債権者が非人間的な職場支配を行っているなどとして債権者を批判し,債権者の社会的な信用ないし評価を損ないかねない内容の行動を行うものであるから,本件土地を所有管理する債権者がこのような使用を許諾するということはおよそ考えられないものであって,債務者による本件土地への立入りが債権者の許諾に基づくものとして行われたと認めることはできない。

債務者が本件土地にスムーズに立ち入ったことがあるにしても,それは債権者が債務者の立入りを積極的に阻止しなかった結果にすぎないものと認められ,許諾に基づくものとして行われたと認めることはできない。このように,本件においては,債権者の使用許諾があったことを前提とし,債務者の立入りが,この使用許諾に基づくものとして行われたものでないことが明らかであるので,債務者が当事者の合意という債権の時効取得を主張するとしても,その主張は理由がない。

 債務者は,本件土地への立ち入りは公共の福祉を目的とするものであり,尊重されるべきである旨,債務者の本件土地における前記行動は債権者の敷地から出ようとする自動車運転者に影響を与えないので保全の必要性はない旨,本件仮処分申立ては緊急性がない旨主張するが,いずれの主張事実も前記認定に係る被保全権利の成立及び保全の必要性を左右するに足りる事由とは認められず,理由がない。


 また,債務者は,本件仮処分申立ては
不当目的による申立てであるから,訴権の濫用として却下されるべきである旨主張するが,前記認定事実に照らせば,到底訴権の濫用等ということはできないものであって,債務者の同主張は理由がない。


 上記のとおりであり,本件仮処分決定は相当であるから,これを認可することとし,訴訟費用の負担につき民事保全法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり決定する。

   平成17年6月28日


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東京地方裁判所八王子支部民事第4部


裁 判 官       一  宮  和  夫