立入禁止仮処分命令申立事件 決 定
予想した内容です。
しかし裁判官なりに気を使ったとも言えるかも
「立ち入らなくても債権者に対する抗議行動を行うことは可能であって」
抗議行動が不当とは言っていない。間接的に肯定しているとも言えるし、人権侵害の存在を徹底的に立証したのでこう書かざるを得なかった?
「談合行為告発への報復や債権者株主総会をめぐる債務者との訴訟の和解交渉を有利にする交換条件として本件申立てを利用することを考えていたとしても,」
本当はこれが沖の理由だと分かっていると言っている。
不服の申立を行い、座り込みは前の歩道でこれまで以上に盛大に行います。ご支援ご参加よろしくお願いします。 2005.3.2
平成16年(ヨ)第419号 立入禁止仮処分命令申立事件
決 定
東京都港区虎ノ門1丁目7番12号
債 権 者 沖電気工業株式会社
同代表者代表取締役 篠 塚 勝 正
債権者代理人弁護士 内 藤 貞 夫
同 渡 部 朋 広
同 長 家 広 明
東京都八王子市椚田町1214番地1−707
債 務 者 田 中 哲 朗
上記当事者間の頭書事件について,当裁判所は,債権者に担保として,債務者のため金10万円の担保を立てさせて,次のとおり決定する。
主 文
債務者は,別紙物件目録1,2記載の土地のうち,別紙添付図面表示の赤線で囲んだ部分に立ち入り,または第三者をして立ち入らせてはならない。
理 由
第1 申立ての趣旨
主文と同旨
第2 事案の概要
債務者は,これまで,約23年間にわたって,債権者が所有し占有する土地(別紙物権目録1,2記載の土地のうち,別紙添付図面表示の赤線で囲んだ部分。以下「本件土地」という。)において,毎月29日の午前10時ころから 午後3時ころまで座り込み等を行ってきた(以下「本件立入」という。)。
本件は,債権者が,今後も,本件立入が行われて本件土地の所有権及び占有権が侵害されることは確実であり,交通上も危険であるなどと主張して,本件立入を禁止する仮処分命令を求めた事案である。
1 債権者の主張の要旨
(1)被保全権利
債権者は,本件土地を所有し,占有している。本件土地は,債権者の八王子地区事業場の敷地の一部であり,同事業場の出入りのための通路部分と,正門から公道に出る際の左右の安全確認のために確保された空地部分とによって,同事業場正門を構成する。本件土地は,一般の利用に供されているわけではなく,債権者は,空地部分に鎖を張り,立入禁止する旨明示している。
債務者は,ここ10年以上にわたり,毎月29日の午前10時ころから午後3時ころまでの約5時間,「座り込み闘争」などと称し,本件土地に無断で立ち入り,座り込みを行うこと(本件立入)を恒例としている。債務者は,自分のホームページ上で本件立入への参加を呼びかけており,少ないときで 二,三名,多いときで十数名程度の参加者が訪れる。債務者は,本件土地にビーチパラソルを1本又は2本立て,折りたたみの椅子を4脚ほど持ち込み,自作の歌を演奏したり,参加した支援者らにコーヒー等をふるまって談笑するなどしている。
債権者は,本件立入当日,警備員を配置し,債務者に対し,立ち入らないよう警告し,また,本件土地に立ち入らないよう警備員が立ちふさがるなどしているが,債務者は,警告に対して聞く耳を持たず,押しのけて立ち入り,抵抗を繰り返して居座ることから,本件立入を禁止できていない。
債務者は,ホームページ上において,毎月29日に本件立入を行うことを予告しており,.今後も本件立入を繰り返すことは鹿実である。
よって,債権者は,債務者に対し,本件土地の所有権又は占有権に基づく妨害予防請求権として,本件土地への立入禁止請求権を有する。
(2)保全の必要性等
本件立入を行う債務者及びその同調者らが障害物となり,正門から出てくる自動車の運転手の左右の視界が確保できず,道路交通上危険な状態となる。
正門前の公道は小学生の通学路となっていることから,本件立入が繰り返されると,重大な交通事故が発生するおそれもある。
また,本件立入は,債権者の事業場の正門前という最も目立っ場所において,座り込みを行うという異常なものである。このため,表現内容に関わらず,座り込み行為自体が,債権者の金融及び業務上の取引先,業界,従業員並びに付近住民らの不信感を招き,債権者に対する社会的評価を乾める。
債務者の主張の要旨
(1)被保全権利
ア 財産権の取得時効
債務者は,本件立入を昭和56年6月30日より開始し,現在まで継続している。債権者は,上記事実を認識しながら,平成13年10月まで20年を超えてこれを放置してきた。
よって,債務者の本件土地への立入には財産権取得時効(民法163条)が成立している。
イ 表現の自由と公共の福祉
債権者の職場で続く深刻な人権侵害を指摘し,改めさせようとしている債務者の行動は,良心に基づくものであり,憲法19条により保護される。これを債権者の土地の所有権のみを理由として規制するならば,債権者の人権侵害を放置,助長し,被害を拡大することになるから,公共の福祉に反する結果となる。従って,債務者が指摘する債権者の人権侵害が事実かどうか等を検証することなく仮処分決定が出されてはならない。
また,本件立入は,表現の自由の行使であるが,表現の自由は,憲法21条によって保障されており,その表現が,公共の福祉を目的としている場合には,とりわけ尊重されなければならない。そして,憲法29条3項は私有財産を正当な保障の下に公共のために用いることができる旨規定しているところ,本件立入は,債権者の人権侵害を改めさせ,国内の他企業における同様の違法行為を改めさせるという公共の福祉のために行われているものである。そして,本件立入は,債権者に対し,何ら実質的な損害を与えておらず,かえって債権者の利益をも目的としている。本件立入の目的が達成されれば,債権者の利益になるのであるから,これは債権者にとって「正当な保障」 ̄−にあたる。したがって,本件立入には憲法29条3項が適用され,債権者の所有権を侵害することも許される。
〈2)保全の必要性等
ア 申立理由の不存在
債務者の座り込みは,債権者の敷地から出ようとする自動車運転者の安全確認に全く影響を及ぼしておらず,保全の必要性はない。
イ 緊急性の不存在
債権者は,平成13年10月に至るまで,本件土地に鎖や立入禁止の札などを設置しておらず,20年という長期間,債務者の座り込みを事実上放置してきた。本件申立ては,それから3年も経過してからであって,緊急性はない。
ウ 不当目的の仮処分申立て
債務者は,債権者の職場で続く,思想信条を理由とする差別,人権侵害,ひいては日本の多くの企業に存在する,同様の人権侵害を改めさせることを目的とした活動を長年行っており,以下の裁判,告発もその一環である。
債務者は,平成14年定時株主総会において,債権者が,株主としての正当な質問に対する答弁を拒否した上,債務者を物理的強制力によって排除し,傷害を負わせたことを不当として,裁判所に提訴,係争中である。
債務者は,債権者が行った公共事業受注に関する贈賄事件により発覚した債権者の談合行為を,平成16年9月,警視庁に告発した。
本件申立ては,債務者の上記活動に対する報復行為(債務者に裁判手続のための労力を強いる嫌がらせ。),又は,上記訴訟において敗訴を予測した債権者が,和解交渉を有利にする交換条件として使用することを目的としたものである。
よって,本件仮処分申立ては,不当目的であって,訴権の濫用にあたるから,却下されるべきである。
3 争点
〈1)被保全権利
(2)保全の必要性
(3)本件申立てが訴権の濫用にあたるか
第3 当裁判所の判断
1 当事者間に争いのない事実,疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,以下のと
おりの事実が認められる。
〈1)当事者
債権者は,電子通信装置,情報処理装置,半導体及び各種電子部品等の開発,製造,販売及び輸出入を営む株式会社である(争いがない。)。
債務者は,債権者の従業員であったが,昭和56年6月,就業規則違反を理由に解雇された。債務者は,解雇後,解雇無効確認等請求訴訟を提起して最高裁まで争ったが,平成6年3月22日,債務者敗訴の判決が確定した(争いがない。)。
(2)本件土地の所有権及び占有権
債権者は,本件土地を所有し,占有している(甲1ないし5)。
本件土地は,債権者の八王子地区事業場に出入りするための通路とその脇の空地部分(正門から公道に出る際の左右の安全確認のために確保された空地。)とによって同事業場正門を構成している(甲1ないし5,9)。債権者は,平成13年10月20日以降,本件土地のうち,通路以外の空地部分と歩道との境界に鎖を張って,立入禁止と明示している(甲9)。
(3)債務者の債権者への抗議行動及び本件立入
債務者は,債権者において,これまで,抵抗しているとみなした従業員に対し,仕事の取り上げ,賃金差別,昇進昇級のストップ,職場の親睦会などからの排除,職場で孤立させるなどの差別,いじめを行ってきており,現在も行っているとして,債権者に対し,様々な抗議行動を行っている。債務者の抗議行動の目的は,債権者のみならず日本中の企業内における人権侵害の改善である(乙1,4ないし9,11,12ないし19,24)。
債務者は,債権者を解雇された翌日である昭和56年6月30日より,ほぼ毎日,債権者の八王子地区事業場正門の門前の公道と事業場敷地との境界線付近に立って,午前8時ころから午前8時30分ころまで,債権者に対する抗議行動として,マイク,スピーカーを用い,債権者を批判する内容の演説や自作の歌の演奏等を行った(甲7,8)。
債務者は,昭和57年1月29日より,現在に至るまでの23年間,ほぼ毎月29日に,午前10時ころから午後3時ころまでの約5時間にわたり,「座り込み闘争」などと称して,本件土地に立ち入り,座り込みを行った(争いがない。)。
債務者は,インターネットの,自分のホームページ上で,本件立入の様子を支援者や一般の参加者の写真と共に掲載しており,本件立入の予定についても記載している。一般の人たちが,ホームページを閲覧して,本件立入に参加することもあり,10名以上の人間が本件立入に参加したこともあった。
債務者は,本件立入の際,本件土地に,立て看板を立て,ビーチパラソルを1本又は2本立て,折りたたみの椅子をいくつも破置し,マイクを使用して演説したり,自作の歌をギター演奏して歌ったり,参加した支援者らにコーヒー等をふるまったり,差し入れの食事を食べながら談笑したりすることもあった(甲6ないし8)。
債権者は,平成13年10月29日以降の債務者の座り込み当日,本件土地に警備員を配置し,債務者に対して立ち入らないように警告し,また,債務者が本件土地に立ち入らないよう警備員が立ちふさがるなどしたが,債務者は,警備員の警告に従うことなく,警備員を押しのけ,本件立入を行った (甲6ないし8)。
債務者は,本件審尋期日において,仮処分決定が出なければ,今後も本件立入を続ける旨述べた(審尋の全趣旨)。
争点(1)について
(1)前記認定によれば,債権者は,本件土地の所有権及び占有権を有しており,本件立入によって,これが侵害されていること,今後も侵害されるおそれが高いことが認められる。
これに対し,債務者は,@本件土地への立入権を時効取得した,A本件立入は公共の福祉を目的とするとして,被保全権利が存在しない旨主張するので検討する。
(2)@民法163条の取得時効の主張について
ア そもそも,債務者の主張する立ち入りのための財産権なる権利は,民法163条で取得時効の対象となる「財産権」といえるか。
債務者の主張する立ち入りのための財産権とは,債務者は,毎月29日に本件土地に立入ることができ,債権者は,その立ち入りを妨害せず受忍 しなければならないことを内容とする権利(以下「立入権」という。)を意味していると思われるから,これは,使用貸借類似の継続的給付を目的とする債権である。
そして,民法163条にいう「財産権」には,その文言上何ら制約がないこと及び立法の沿革等から,継続的給付を目的とする債権も含まれると解するのが相当であるから,立入権は,同条で取得時効の対象となる「財産権」といえる。
イ 次に,立入権のような債権において,どのような事実状態の継続があれば,同条の取得時効が成立しうるのか,同条にいう財産権の行使の意義が問題となる。
思うに,取得時効制度の存在理由は,永続した事実状態の尊重等にあるから,同条にいう財産権の行使とは,当該財産権がその者の実質的支配のうちに存すると認められる客観的事情があることをいうと解すべきである。
そうすると,債権の場合は,そのような債権がその者に属していると思われるような客観的事情,すなわち,当該事実行為が,単なる事実行為として行われているのではなく,債権の行使として行われていると認めるに足りるだけの積極的な外観・客観的事情が存在することを要すると解するのが相当である。
そこで,本件立入に,単なる事実行為として行われているのではなく,立入権の行使として行われていると認めるに足りるだけの積極的な外観・ 客観的事情があったかを検討するに,前記認定のとおり,債務者は,20年以上にわたり,毎月29日に,一方的に本件土地に立ち入り,約5時間にわたってマイクなどを用いて債権者に対する批判を繰り返し,債権者は,平成13年10月20日までは,本件立入を積極的に阻止した様子は窺われないというのである。そうすると,債務者が,本件立入を行うに際し,当初の約20年間は,債権者から,積極的な拒絶はなかったといえるが,他方,本件立入において,債権者に,積極的に許容されていたと認められる事情はなく,また,債務者が,立入権の行使として行っていることを積極的に明示していたといった事情も認められない。
以上の事情からは,本件立入には,単なる事実行為として行われたという外観が認められるにとどまり,立入権の行使として行われたと認めるに足りるだけの積極的な外観・客観的事情が存在するとまではいえないというべきである。
り したがって,本件立入をもって,163条にいう財産権の行使があったとは認められないから,立入権を時効により取得したとの債務者の主張には理由がない。
(3)A本件立入が公共の福祉を目的とする旨の主張について
債務者は,債権者の職場での人権侵害を改めさせようとしている債務者の行動は,憲法19条,21条により保護されるべきものである上,本件立入は,公共の福祉のために行われているものであるから,とりわけ尊重されなければならないなどと主張しているところ,要するに,本件立入が,正当行為であり,違法性を欠くとの趣旨であると思われる。
しかし,そもそも,債務者は,本件土地に立ち入らなくても債権者に対する抗議行動を行うことは可能であって,債務者主張の諸事情が,債務者が債権者の所有権を侵害することを正当化するものとはいえない。
したがって,本件立入は違法性を欠くとの債務者の主張には理由がない。
(4)以上によれば,債権者は,債務者に対し,本件土地の所有権又は占有権に基づく妨害予防請求権としての本件土地への立入禁止請求権を有するものと認められるから,本件申立てについて,被保全権利が認められる。
争点〈2)について
前記認定によれば,債務者は,本件立入を,20年来続け,最近では,自分のホームページに,本件立入の予定などを記載し,一般の人など10名以上の人間が参加したこともあり,立て看板を立て,ビーチパラソルを立て,折りたたみの椅子をいくつも設置し,マイクを使用して演説したり,自作の歌をギター演奏して歌ったり,参加した支援者らにコーヒー等をふるまったり,差し入れの食事を食べながら談笑するなど,大がかりになってきており,また,債務者は,今後も本件立入を続ける旨述べているというのである。
以上によれば,本件立入が,債権者の本件土地の所有権・占有権を侵害するもので,最近はその侵害の程度が大きくなってきており,今後も,債務者が,そのような本件立入によって債権者の本件土地所有権・占有権を侵害するおそれがあることは明白であるから,その急迫の危険を避ける必要性を認めることができる。
よって,本件立入が,交通上危険かどうかを判断するまでもなく,本件申立てについて,保全の必要性が認められる。
4 争点(3)について
仮処分の申立ては,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限って訴権の濫用となると解すべきである。
そして,これまで認定したとおり,本件申立てには,被保全権利も,保全の必要性も認められるのであり,仮に,債権者が,本件申立てにあたり,債務者による債権者の談合行為告発への報復や債権者株主総会をめぐる債務者との訴訟の和解交渉を有利にする交換条件として本件申立てを利用することを考えていたとしても,本件申立てが,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとはいえない。
よって,本件仮処分申立てが,訴権の濫用にあたるとは認められない。
5 以上のとおり,本件申立てには,被保全権利があることが認められるほか,保全の必要性も認めることができる。
よって,債権者の債務者に対する本件申立ては理由があるから,主文のとおり決定する。
平成17年2月28日
東京地方裁判所八王子支部民事第4部
裁 判 官 丹 下 将 克